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重症心不全

重症心不全に対する経皮的デバイス(IABP, ECMO, Impella)

千葉大学大学院医学研究院心臓血管外科学
松宮護郎

1.はじめに

重症心不全における補助循環の適応を検討するうえで、そのステージ分類であるINTERMACS (IM)分類(表1)が広く用いられている。心原性ショック状態であるprofile 1やカテコラミン依存状態であるprofile 2, 3においては、原疾患および病態に応じて様々な補助循環装置を組み合わせて使用することで治療成績の向上が図られてきたが、近年補助循環用ポンプカテーテルである Impella® (Abiomed, USA))が登場し、重症心不全に対する治療体系に変化が起こりつつある。現在わが国で使用可能な経皮的デバイスについてその適応と成績、今後の課題について解説する。

INTERMACS分類
INTERMACS分類

2.大動脈内バルーンポンプ (IABP)

1) 適応

急性心筋梗塞(AMI)、開心術後心不全、劇症型心筋炎、心筋症の急性増悪などによる重症心不全に対する第一選択の補助循環装置として選択されてきた。しかしながら、心拍出量の増加効果は限定的であり、高度の低心拍出量症候群(LOS)に対して効果は期待できない。IABP-SHOCK IIトライアル(1)においてAMIショック症例の30日および12か月生存率はIABP使用により改善しなかったとの報告をうけ、近年AMIショックに対するルーティンでの使用は推奨されなくなった。
一方でECMOやImpella®に比べれば低侵襲性や合併症回避の点からは優っており、実臨床においてはIM profile 2 やprofile 1でも高度のLOSではない症例においては、依然としてまずIABPが用いられることは多い。強心剤を減量できることで不整脈のコントロールが容易になるといった効果も期待できる。米国では離床可能とするために腋窩動脈に人工血管を吻合し、そこから順行性に下行大動脈に挿入する新たなIABP装置(2)が臨床治験されている。
大動脈弁閉鎖不全、下行大動脈の大動脈瘤、解離、高度の粥状硬化、腸骨動脈の狭窄や高度蛇行などは禁忌となるので、施行前にCTや経食道心エコーで確認してから使用することが望ましい。

2) 施行中の管理

① カテーテルの選択

 通常7-8Frのサイズを選択するが、6Frのものも市販されており、下肢の虚血が心配される場合には選択肢となる。しかし、バルーンの膨張、収縮不全により十分に補助効果が発揮できなかったり、頻脈に対する追従性が十分でなかったりする可能性があることを念頭に置く。腹腔動脈下にバルーンが留置されると腹部分枝の虚血を生じたり、バルーン破裂を起こしたりする危険性が高まる。日本人向けのショートバルーンが市販化されており、身長に対し適切なバルーン長を選択する。

② 駆動タイミングの設定

IABPの補助効果を十分に得るために重要である。バルーン拡張のタイミングは大動脈弁閉鎖によって生じるdicrotic notchに一致し、収縮のタイミングは拡張末期動脈圧が最低になるように調節する(図1)。最近は駆動アルゴリズムが装置に内蔵されており、これによる駆動で使用する場合が多い。

図1
図1

3) IABPからの離脱

① 離脱基準

関しては肺動脈カテーテルの指標をモニタリングしていることが多く、その数値を離脱基準とするのが一般的である。心拍出係数2.0L/min/m2以上、肺動脈楔入圧20mmHg以下が離脱の目安となる。カテコラミンをどの程度使用してこれらの血行動態を維持するかについては、施設さらには対象患者によって方針が異なると思われる。我々は可能な限り中等度程度(Dopamine 5-7μg/kg/min)以下まで減量してからウィーニングを開始するようにしている。
不整脈も重要な要素であり、上室性頻拍、心房細動、心室性頻拍などが起こり血行動態の悪化を認める場合、抗不整脈剤投与やカテコラミンの減量などによりコントロールがつくのを待ってから離脱を開始する。

② 離脱の進め方

最も一般的なウィーニング方法は、補助比率を1:1から1:2へ、さらに1:3と段階的に下げていくアシスト比ウィーニングである。一方でバルーンの駆動ガス容量を徐々に下げていく方法、すなわちボリュームウィーニングを行う場合もある。

3.経皮的心肺補助装置 (ECMO)

1) 適応

ベッドサイドで緊急時にも挿入可能であること、酸素化も行えることから呼吸不全合併時にも使用できること、右心不全にも対応できること、十分な補助流量が得られれば臓器障害改善効果があることなど多くの長所を有し、高度のLOS、臓器障害を合併する心原性ショック(IM profile 1)の補助循環治療として用いられている。

2) 施行中の管理

心機能の回復を得るためには、カテコラミンはなるべく減量して心筋障害を軽減するのが理想であるが、左室機能低下が著しくECMOによる後負荷増加から全く左室から拍出ができなくなると、左室内血栓や肺うっ血を来すことになる。こういった場合、心エコーで観察しながら左室からある程度の拍出が保たれるようにカテコラミン投与を継続する必要がある。肺うっ血が進行する場合、左心系のventingのため、開胸して左室心尖部から脱血カニューレを挿入し脱血側にY型コネクターで接続する方法(Central ECMO)は侵襲は大きいが効果は高い。近年は循環補助用心内留置型ポンプカテーテル(Impella®)を併用して左室をunloadingすることで肺うっ血を改善し、左室の回復を促す方法(ECPELLA)がECMO単独補助に比べて生存率改善に有効であることが示されている(3)。

図2
図2

人工呼吸器条件の設定は、理想的には肺傷害の進行を予防するため吸入酸素濃度を50%以下に下げ最大気道内圧も30mmHgを超えないようにするのが望ましい。しかし、うっ血性肺障害が進行し酸素化が不良となると、自己肺から左室を経由して拍出される低酸素化血により上半身の低酸素血症を生じうる(centralまたはdifferential hypoxia) ので必ず右橈骨動脈に動脈ラインをとり、動脈血ガスを定期的にチェックし脳障害を回避しうるだけの酸素化が保たれるように呼吸器条件を設定する。右腋窩動脈に吻合した人工血管から送血する方法や、通常のPCPS回路に加え右総頚静脈から上大静脈に進めたカニューラからも酸素化血を送血する方法(VAV ECMO 図2B)も有用である(4)。
ECMOによる循環補助を行っているにも関わらず、肝腎機能障害の進行を認める場合、十分なうっ血の解除と補助流量の確保が得られていないことが多い。特に良好な脱血は重要であり、脱血カニューレのサイズアップを検討する。これが困難な場合は右総経静脈から右房にもう一本脱血管を追加することも有効である(図2C)(4)。溶血は急性腎不全を惹起し、予後を不良にするので直ちに対処する必要がある。カニューレのサイズに比して高回転で遠心ポンプを設定し、陰圧がかかりすぎていることが原因であることが多い。可能な限り低回転にするか脱血カニューラをサイズアップすることを検討する。遠心ポンプ内の血栓形成でも起こりうるので回路を交換することも考慮する。
抗凝固療法はヘパリン持続静注により活性凝固時間(ACT) 180-200秒, 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) 60-70秒に維持する。開胸術後早期や出血合併症などにより抗凝固レベルを低く抑えたい場合にはAPTTを40-50秒程度とする。
下肢血流不全が疑われる場合、大腿部を切開し直接、または経皮的に大腿動脈末梢側に4-6Frのシースを挿入し、送血の側枝から還流する(図2A)。小体格患者など明らかにハイリスクと考えられる症例ではECMO開始後早期に上記の処置を予防的に追加しておく。虚血による筋肉壊死が起こった場合、きわめて予後が不良であるので下肢虚血を疑う場合、可及的早期の対処が必要である。
ECMOはあくまで一時的な循環補助であり、長期補助になると上述のもの以外にも感染や出血、塞栓症など種々の合併症が発生する可能性が高くなる。したがって一定期間内に心機能回復が得られない場合、補助人工心臓への移行を考慮する。

3) ECMOの成績

我が国におけるECMOの成績として、5263症例のDPCデータの解析が報告されており、64.4%がweaning可能であったが、その後の死亡率は37.9%と高率であったことが示されている(5)。心機能回復が得られない場合、長期循環補助治療への移行がさらなる救命率向上のために重要と考えられる。

4. 循環補助用心内留置型ポンプカテーテル(Impella®)

左室内に大動脈弁を経由して逆行性にカテーテル型の軸流ポンプを挿入し、回転による揚力により左室内の血液を上行大動脈に送血する補助循環装置である(図3)。可能な最大補助流量によりImpella® 2.5, CP, 5.0の3種類が使用可能で、それぞれ2.5, 3.5, 5.0 l/minの最大補助流量を有する。Impella® 2.5, CPは大腿動脈からシースによる挿入が可能であるが、5.0はカットダウンが必要である。腋窩動脈に人工血管を吻合し、そこから挿入する方法が用いられることが多く、離床を進めることが可能になる。

図3
図3

1) 適応と成績

Impella® 2.5, CPはAMIに伴う心原性ショックに対する使用報告が多い。初期のIABPとのランダム化比較試験においては生命予後改善効果における優位性は示されなかった。しかし、近年の米国におけるNational Cardiogenic Shock Initiative (NCSI) (6)によるレジストリーデータでは、AMIショック症例でカテーテルインターベンション(PCI)を行う前に速やかにImpella®(主としてCP)を導入し、その後にPCIを行うことで有意の生存率の改善が得られたという報告がなされ、AMIショック症例に対しての第一選択の治療法となりつつある。Impella®5.0は主として心筋症の急性増悪症例を中心として状態安定化を図ってから植込み型LVADや心臓移植へ移行するまでのブリッジとして用いられ、良好な成績が報告されている。

2)装着後の管理

Impella®装着後の管理としては、なるべく早く強心剤をウィーニングし心筋障害を避ける、肺動脈カテーテルで血行動態を評価し十分なサポートが得られているか、右心不全はないかの判断を行う。NCSIではCardiac power output(mean arterial pressure X cardiac output/451)が0.6以下の症例ではサポートが十分でなく生存率が低かったことから、Impella® 2.5/CPの場合はImpella5.0にupgradeすることや開胸下にLVAD装着に移行することを推奨している。また右心不全を合併する場合は右心補助を追加することが必要になる。NCSIでは右心不全の指標としてPAPindex (sPAP–dPAP/RAP)<1が最も有用な指標であるとしている(6)。海外においては経皮的な右心不全装置(Impella® RP)が存在するがわが国では使用できない。したがって両心不全を伴う場合、PCPSを併用(ECPELLA)するか、開胸下に両心補助体外設置型補助人工心臓(体外式VAD)を装着する必要がある。また呼吸不全を伴う場合はVV ECMOを併用するなどの対策が必要となる。
Impella®で循環が安定すれば離脱に向かうか、その先の治療(VAD)に向かうかの判断を行う必要がある。Impella®からの離脱はサポートを低サポートレベル(P-2)まで下げて肺動脈カテーテルで血行動態を、また心エコーで心機能を評価し可否を決定する。

3)主な合併症

溶血、出血、僧帽弁、大動脈弁の損傷、血管損傷や閉塞、腕神経叢障害などが報告されている。

5. おわりに

心原性ショックの予後は依然として不良であるが、様々な循環補助装置が使用可能になり治療成績も向上しつつある。ショック状態での速やかな補助循環の導入、病態に応じて時機を逸せず右心補助、呼吸補助、より強力な左室サポートの導入といった治療を加えること、未然に合併症を予防することといった綿密な管理でさらなる成績の向上が期待される。

図説明

文献

  • 1. Thiele H, Zeymer U, Neumann F-J et al. Intraaortic balloon support for myocardial infarction with cardiogenic shock. New England Journal of Medicine 2012;367(14):1287-1296.
  • 2. Tanaka A, Tuladhar SM, Onsager D et al. The subclavian intraaortic balloon pump: A compelling bridge device for advanced heart failure. The Annals of thoracic surgery 2015;100(6):2151-2157; discussion 2157-2158.
  • 3. Pappalardo F, Schulte C, Pieri M et al. Concomitant implantation of impella(r) on top of veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation may improve survival of patients with cardiogenic shock. European journal of heart failure 2017;19(3):404-412.
  • 4. Napp LC, Kühn C, Hoeper MM et al. Cannulation strategies for percutaneous extracorporeal membrane oxygenation in adults. Clinical Research in Cardiology 2016;105(4):283-296.
  • 5. Aso S, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H. In-hospital mortality and successful weaning from venoarterial extracorporeal membrane oxygenation: Analysis of 5,263 patients using a national inpatient database in japan. Critical care (London, England) 2016;20:80.
  • 6. Basir MB, Kapur NK, Patel K et al. Improved outcomes associated with the use of shock protocols: Updates from the national cardiogenic shock initiative. Catheterization and cardiovascular interventions : official journal of the Society for Cardiac Angiography & Interventions 2019;93(7):1173-1183.