特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会 手術・手技トップへ

© 2018 The Japanese Society for Cardiovascular Surgery

このページを印刷する
トップへ
先天性心疾患

体肺動脈短絡手術と肺動脈絞扼術

富山大学 第1外科
芳村直樹

小児開心術の成績が著しく向上し、複雑な心疾患に対する心内修復術が安全に行われるようになった今日においても種々の姑息手術の重要性は変わらない。むしろ代表的な姑息手術である体肺動脈短絡手術と肺動脈絞扼術は、その後の段階的治療の完成度に影響する非常に重要な必須の基本術式となっている。

体肺動脈短絡手術

体肺動脈短絡手術とは

体肺動脈短絡手術とは、肺血流の減少を伴うチアノーゼ性心疾患に対して体動脈と肺動脈との間に短絡(シャント)を作成し、肺血流を増加させ、チアノーゼの軽減を図る手術である。肺血流を増加させることにより肺動脈の成長を促し、左心系への還流血を増加させて心室の発育を促すことにより、将来の心内修復術もしくはFontan手術を可能にするための準備手術として広く用いられている1)。歴史的には1944年に鎖骨下動脈を離断して、肺動脈に吻合するBlalock-Taussig 原法が最初の短絡術であるが、現在最もよく行われているのはePTFE人工血管を用いて鎖骨下動脈と肺動脈の間に短絡を作成するBlalock-Taussig 変法(図1)である2)。最近では側開胸ではなく、胸骨正中切開アプローチで行われることが多くなっており、その場合には鎖骨下動脈ではなく腕頭動脈と肺動脈との間にシャントが作成されることになる(図2)。また、弓部分枝あるいは肺動脈が低形成で吻合が困難もしくは充分な流量が得られない場合には大動脈-肺動脈本幹間にシャントが作成されることもある(セントラルシャント)(図3)。

Blalock-Taussig変法
図1:Blalock-Taussig変法
図2: 胸骨正中切開アプローチによる腕頭動脈-肺動脈シャント
図2: 胸骨正中切開アプローチによる腕頭動脈-肺動脈シャント
図3: 胸骨正中切開アプローチによるセントラルシャント
図3: 胸骨正中切開アプローチによるセントラルシャント

対象となる疾患

肺動脈閉鎖あるいは肺動脈狭窄を合併する先天性心疾患で一期的心内修復術もしくは両方向性Glenn手術までの間チアノーゼのコントロールが困難な症例が対象となる。疾患としてはFallot四徴、肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損、完全大血管転位(III型)、純型肺動脈閉鎖のほか、Fontan手術の対象となる単心室群が挙げられる。肺動脈閉鎖あるいは高度肺動脈狭窄で肺血流を動脈管に依存している症例の場合は、プロスタグランジンE1を投与して動脈管を開存させておき、しかるべき時期に短絡術を行うことになる3)。低体重児では弓部分枝あるいは肺動脈が細すぎて人工血管の吻合が困難であること、体格に比して肺血流過多となると心不全を惹起することから最低2.5kgできれば3kgを越えてから手術を行うことが望ましい。

術前準備

術前の血管造影検査あるいは最近では3DCTを行い、大動脈弓と弓部分枝の形態、肺動脈のサイズ、動脈管の走行等を確認して、手術のアプローチ(右開胸、左開胸あるいは正中切開)、シャントの吻合部位、動脈管の処理、体外循環の必要性、肺動脈形成の要否等を決定する。人工血管は3mm、3.5mm、4mmが多く用いられる。患児の体重、疾患(二心室か単心室か)、心機能と房室弁逆流の有無、心内修復術あるいは両方向性Glenn手術までの期間、吻合部位、順行性肺血流の有無等によって人工血管のサイズを決定する。

側開胸アプローチによるBlalock-Taussig 変法

基本的には大動脈弓の反対側にシャントを作成することが多い。後側方切開第4肋間にて開胸する。右肺動脈の露出は意外に難しく、肺静脈と誤認したり、右肺動脈上葉枝を右主肺動脈と誤認することがあるので注意する必要がある。肺を(下方ではなく)後方に圧排すれば頭側から肺動脈→肺静脈の順に平行に並ぶので露出が容易になる。右肺動脈は上大静脈の後方で可及的中枢まで剥離して、主肺動脈の部分に吻合できるスペースを確保する。左肺動脈の場合は肺を下方に圧排し、比較的容易に露出できる。右鎖骨下動脈は肺尖に存在し、最上肋間静脈を結紮切断するとその奥から露出できる。左鎖骨下動脈は大動脈弓から直接分岐しているので容易に露出できる。ヘパリン化の後、鎖骨下動脈をdouble angleの鉗子で遮断し、縦切開する。確実に内腔が確認できるような視野を作成する。人工血管を斜めに切開し、7-0 モノフィラメント糸の連続縫合で中枢側吻合を行う。新生児では動脈といえども非常に壁が薄く裂けやすいので細心の注意を払って吻合する。吻合終了後に人工血管よりヘパリン生食を注入して吻合部に圧をかけ、major leakageがないことを確認する。次いで、肺動脈中枢側を鉗子で遮断、末梢側は2号絹糸で一重結紮して遮断した後、縦切開(充分な距離がない場合は横切開)し、人工血管末梢側と7-0 モノフィラメント糸の連続縫合で吻合する。空気抜き用に27G針を肺動脈に刺し、吻合部にフィブリン糊を塗布した後、肺動脈、次いで鎖骨下動脈の遮断を解除する。スリルの触知と止血を確認する。

胸骨正中アプローチによる体肺動脈短絡術

視野が良好で、体外循環が容易に使用できる。片肺を圧排する必要がなく、動脈管の処理も容易であるという利点があり、最近は側開胸よりも正中切開アプローチが選択されることが多い。
胸骨正中切開後、胸腺右葉を切除し、腕頭動脈を露出する。次いで腕頭動脈と同側の肺動脈を露出する。ヘパリン化の後、腕頭動脈をdouble angleの鉗子で遮断する。腕頭動脈と対側の総頚動脈が同部位で起始(bovine arch)している場合があるので、総頚動脈の血流を阻害しないように充分な注意が必要である。中枢側吻合の後、肺動脈を遮断する。肺動脈側の吻合中は上行大動脈を左側に圧排するが、肺動脈を遮断している鉗子で大動脈や冠動脈を押さえ過ぎて血行動態を悪化させないよう注意が必要である。中枢側、末梢側とも吻合は側開胸の場合とほぼ同様である。
側開胸アプローチではシャント血流が鎖骨下動脈の径に規定されるため、それほど肺血流過多にはならないが、正中切開アプローチでは中枢側吻合が腕頭動脈に行われているため、体血流が肺に盗られて、低血圧・乏尿・代謝性アシドーシスを来したり、気管内吸引等を契機に急変して心停止を来すこともある為、術後管理の際に十分な注意が必要である。

肺動脈絞扼術

肺動脈絞扼術とは

図4: 肺動脈絞扼術
図4: 肺動脈絞扼術

肺動脈の基部にテープをかけて狭窄を作ることにより(図4)、左→右短絡の量を減少させる手術を肺動脈絞扼術という2)。肺血流増加型の先天性心疾患に対して肺血流量を減少させることによって心不全を改善させ、同時に肺血管床を保護して肺血管閉塞性病変の進行を防ぎ、肺高血圧症を予防するために行われる。

対象となる疾患

左→右短絡により肺血流が増加し、心不全や肺高血圧を来している疾患で、一期的心内修復術のリスクが高いもの、もしくは一般的に段階的治療が行われる疾患群が対象となる。疾患としては心室中隔欠損(多発性、大動脈縮窄複合、他臓器疾患合併例等)、完全型房室中隔欠損、Taussig-Bingのほか、Fontan手術への段階的治療に入っていく高肺血流の単心室群が挙げられる4)。大動脈弓再建のリスクが高い大動脈縮窄複合や左心底形成症候群の新生児等、動脈管の血流を維持しながら肺血流量を制御しなければならない症例に対しては、左右肺動脈を別々に絞扼する両側肺動脈絞扼術が行われる。対象となる疾患によって目的は様々であり、心不全の軽減、房室弁逆流の低減や心機能の維持、肺高血圧の予防、肺血管抵抗を低く保ちFontan循環可能な肺を作る等、疾患、病態、目的によりアプローチや絞扼の程度等も使い分ける必要がある。

側開胸アプローチによる肺動脈絞扼術

体外循環を用いずに大動脈弓再建や動脈管結紮を同時に行う場合は左開胸アプローチとする。左後側方切開第3肋間にて開胸。大動脈弓再建・動脈管結紮を行った後、肺を後方に圧排し、横隔神経より1cm前方で神経に平行に心膜を縦切開して肺動脈本幹を露出する。絞扼テープの移動を避けるため肺動脈の剥離は行わず、double angle鉗子をtransverse sinusから挿入し、大動脈-肺動脈間の肺動脈ST junction直上に先端を出して、肺動脈にテーピングを行う。大血管転位やmalpositionを伴う両大血管右室起始の場合はtransverse sinusを通して両大血管をまとめてテーピングした後、subtraction法にて肺動脈にテーピングを行う。絞扼テープは施設によって異なるが、テトロンテープ、ePTFE糸、ePTFE人工血管等が用いられる。あらかじめ絞扼テープにマーキングしておき、古典的なTruslerの基準5)(肺動脈周囲径を非チアノーゼ性心疾患:20+体重mm、チアノーゼ性心疾患:24+体重mmに絞扼)を参考に絞扼し、血圧、SpO2をモニターしながら、0.5~1mmずつ微調整する。Fontan手術を目指す単心室症例の場合は若干きつめに絞扼し、充分に肺動脈圧を下げておく必要がある。絞扼に用いる縫合糸をテープ→肺動脈壁→テープの順に刺入することによって絞扼テープのmigration(遠位側へのズレ)を防止する。

胸骨正中アプローチによる肺動脈絞扼術

胸骨正中切開アプローチでは側開胸よりも左右肺動脈の視野が良好であること、片肺を圧排する必要がなく充分な絞扼ができること等の利点があり、基本的には正中切開アプローチが選択されることが多い。次回手術時の癒着を最小限に留めるため、心膜の切開は肺動脈前面のみとする。絞扼の手技に関しては、側開胸の場合とほぼ同様である。

参考動画

文献

  • 1) Yoshimura N, Yamaguchi M, Ohashi H, et al. Growth of the subclavian artery and the anastomosis in Blalock-Taussig shunt: Absorbable versus nonabsorbable suture. Ann Thorac Surg 1998; 65: 1746-50.
  • 2) 芳村直樹、山口眞弘. Blalock-Taussig手術、肺動脈絞扼術. HEART NURSING. 1992;5:517-21.
  • 3) 芳村直樹、山口眞弘、大橋秀隆. 幼若乳児に対するBlalock-Taussig 手術-プロスタグランデインE1 長期投与の可否について-. 日胸外会誌. 1993;41:2001-5.
  • 4) Yoshimura N, Yamaguchi M, Oka S, et al. Pulmonary artery banding still has an important role in the treatment of congenital heart disease. Ann Thorac Surg 2005; 79: 1463.
  • 5) Trusler GA, Mustard WT. A method of banding the pulmonary artery for large isolated ventricular septal defect with and without transposition of the great arteries. Ann Thorac Surg 1972; 13: 351-5.

図説明