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先天性心疾患

ファロー四徴症の手術

京都府立医科大学小児医療センター 小児心臓血管外科
山岸正明

はじめに

ファロー四徴症は、①心室中隔欠損(VSD)、②大動脈騎乗、③右室流出路狭窄、④右室肥大を伴う疾患である。右室流出路狭窄には肺動脈弁狭窄、弁下狭窄、弁上狭窄が様々な程度で認められる。

手術

1. 姑息手術(Blalock-Taussig shunt)

新生児、乳児早期例で、①動脈血酸素飽和度が低値(80%以下)である症例、②動脈管依存症例、③右室流出路筋性狭窄が高度で無酸素発作が懸念されるような症例などでは、肺血流を増加させるために、正中切開もしくは側開胸アプローチでBlalock-Taussig shunt手術を行う。体重と順行性血流量に応じて、3.5 mmもしくは4.0 mmのePTFE人工血管を腕頭動脈と肺動脈の間に縫着する。肺動脈側の吻合部位は肺動脈形態により決定する。

2. 根治手術

本症の根治に際して、心室中隔欠損閉鎖と右室流出路拡大形成が必要となる。

1) 心室中隔欠損閉鎖

本症の心室中隔欠損(VSD)は傍膜様部流出型(perimembranous outlet type)(図1、右)もしくは筋性部流出型(muscular outlet type)(図1、左)である。
VSDの上方には騎乗した大動脈弁が存在する。筋性部流出型VSD例では三尖弁輪と心室中隔欠損の間に筋性組織(心室漏斗部皺壁)が介在している。傍膜様部流出型では三尖弁輪は直接VSDと接しており、VSD後下縁には膜性翼片(membranous flap)が存在する。いずれのタイプのVSDでもVSD下縁には刺激伝導系が存在する(点線は左室側心内膜下もしくは心筋内走行、実線は右室側心内膜下を走行)(図1)。
VSD閉鎖に際してVSD周辺に縫合糸をかけていくが、VSD後下縁付近に存在する房室結節(Atrioventricular node: AV node)と刺激伝導系(VSD下縁を走行するnon-branching bundle:緑点線とbranching bundle:青点線、前下縁から心尖部に向けて分枝して走行する右脚:赤点線と実線)を損傷しないように留意する必要がある(図2)。VSD上縁は大動脈弁輪を回り込むように縫合糸をかける。傍膜様部流出型の場合はVSD後上縁は三尖弁前尖となるため、この部分の縫合糸は三尖弁弁輪を貫いてかける必要がある(図3:☆)。
ePTFE(Gore-Tex)などのパッチを用いてVSDを閉鎖する。大動脈弁が心室中隔に騎乗しているため、縫着したパッチはやや右室側に張り出した形となる。
経三尖弁越しに視認することが可能な肥厚心筋束(図3:A、B、C)は可及的に切除する。この際、VSD閉鎖縫合糸をかけるために利用する筋束(心内膜)は温存する必要がある。また刺激伝導系が走行する中隔縁柱は損傷しないように留意する。

傍膜様部流出型(perimembranous outlet type)、筋性部流出型(muscular outlet type)
図1 左:筋性部流出型VSD、三尖弁輪とVSDの間に筋性組織(心室漏斗部皺壁)が介在する。右:傍膜様部流出型VSD、三尖弁輪とVSDが接しており、後下縁に膜性翼片が存在する。
図2 VSD周辺の解剖
図2 VSD周辺の解剖
図3 VSDパッチ閉鎖
図3 VSDパッチ閉鎖

2) 肺動脈狭窄解除

本症の形態的特徴は漏斗部中隔(大動脈弁と肺動脈弁間の中隔、流出路に存在する)の前方偏位により、様々な程度で肺動脈弁狭窄、弁下の筋性狭窄を認める。また肺動脈弁上狭窄(肺動脈低形成)を認める症例もある。

① 右室流出路拡大(肥厚心筋束切除)
 

本症では漏斗部中隔の前方偏位と肥厚心筋束による右室流出路狭窄病変を認める(図4、左)。右室流出路を縦切開をして、流出路拡大を行う。心室漏斗部皺壁-右室自由壁間(図4右、A)、漏斗部中隔-右室自由壁と心室中隔間(図4右、C)の心筋束は可及的に切除する。また、前方伸展(手前側に張り出している)した漏斗部中隔もそぎ落とす。右室流出路切開口はePTFEパッチなどにより補填して拡大を行う。

心臓血管外科_ファロー四徴症_図4
図4 左:右室流出路縦切開した際の解剖、右:流出路心筋切除
② 肺動脈弁交連切開、肺動脈弁輪温存

本症の肺動脈弁はfish-mouse状の一尖弁や肥厚した二尖弁の場合が多い。弁輪径がある程度確保できる症例では交連切開により弁口拡大を行い、弁輪は温存する。

③ 右室流出路拡大形成

肺動脈弁輪低形成を認める症例では弁輪を切開し、主肺動脈から右室流出路にかけて弁付き流出路パッチによる拡大形成を行う。本邦では一般的にePTFE製一弁パッチが多用されている。極型ファロー四徴症のように狭窄病変が高度の症例ではePTFE弁付き導管により右室-肺動脈血流路を再建する1)。

参考動画

文献

  • 1. Yamagishi M. Right Ventricular Outflow Reconstruction Using a Polytetrafluoroethylene Conduit With Bulging Sinuses and Tricuspid Fan-shaped Polytetrafluoroethylene Valve. Operative Techniques in Thorac Cardiovasc Surg. 2016 Autumn;21(3):211-229.

図説明