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総論

人工心肺

東京女子医科大学心臓血管外科
冨澤康子

心臓や大血管の手術では、心臓を止めて手術をすることが多いが、その間、体循環、肺循環およびガス交換を代行する装置が人工心肺装置であり、究極の生命維持装置である。代行を体外で行うことから体外循環装置ともいう。人工心肺装置が体循環及び肺循環を完全に代行する状態を完全体外循環といい、一部代行している状態を部分体外循環という。部分体外循環は循環補助時、あるいはガス交換能を代行する時にも用いられる。人工心肺装置を考案したのはGibbonであり、初めて体外循環を利用して心房中隔症の手術に成功している。日本国内で体外循環を用いた手術に成功したのは1956年のことであった。

人工心肺装置の構成は、体外循環回路と付属回路からなる。体外循環回路には血液ポンプ、人工肺が含まれる。心臓や大血管の手術時には貯血槽、吸引ポンプ、ベントポンプ、フィルター、バブルトラップ、熱交換機、冷温水槽、冠灌流回路、血液濃縮装置などの機器が用いられる。

血液ポンプには血液損傷が軽度であり、送血流量の信頼性が高いことが求められる。血流のパターンとしては拍動流と脈圧の無い無拍動流がある。用いられるポンプの種類ではチューブを連続的にしごくローラーポンプと遠心力を利用した遠心ポンプの2種類がある。人工肺は血液を酸素加し、炭酸ガスを除去する装置で、気泡型と膜型がある。貯血槽には、静脈貯血槽、動脈貯血槽がある。血液濃縮器は人工心肺中の血液希釈や心保護液の注入により希釈された血液を限外濾過により余剰水分を除去する。動脈フィルターやバブルトラップは貯血槽内のフィルターに加え、異物や、気泡などを除去する目的で用いる。熱交換器と冷温水槽は、体外循環中の血液の温度を調節することにより、体温を調節する装置である。冠灌流回路は心停止中に心筋保護液や酸素加血をローラーポンプを用いて冠動脈に灌流する。体外循環の回路はポリ塩化ビニル製、コネクタ類はポリカーボネート製が用いられ、カニューレには送血、脱血、ベント、心筋保護用がある。

人工心肺操作の実際と危機管理において重要なのは、①マニュアル類、②安全装置とモニター類、③教育および訓練である。人工心肺のマニュアル類には、操作マニュアル、チェックリスト、危機管理マニュアルの3種類があり、事故を減らすためにはインシデント・アクシデント報告ガイドラインを持つことが好ましい。体外循環における主な安全装置には、無停電電源装置、レベルセンサー、気泡検出器、圧力モニターなどがある。体外循環操作は分業化される傾向にあるが、装置および安全に関する教育は不可欠であり、トラブルからの脱出訓練には医療チームの連携が重要であり、日頃からの訓練が欠かせない。

臨床工学技士が受験し取得できる、関連学会が主催する認定士資格のひとつに体外循環技術認定士がある。受験資格に必要な経験年数は3年であり、現場で臨床経験を積まないと受験できない。どのような状態に陥っても柔軟に対応できる基礎的な知識をもち、他の職種と違い、医学のみならず工学的な知識と技術を備えた臨床工学技士の中でも、体外循環技術認定士は、医療機器の専門家として生まれた資格であり、高度化した医療に多大な貢献が期待される。

体外循環を中心とした教育プログラムとしては日本人工臓器学会の教育セミナーなどがある。

2007年には平成18年度医薬品等適正使用推進事業の成果として、人工心肺装置の標準的接続方法およびそれに応じた安全教育等に関するガイドラインがまとめられた1)。体外循環回路に関する必須および推奨項目を示す(図1-1~3、表1-1~3)。

図1-1、表1-1 図1-2、表1-2 図1-3、表1-3

日本体外循環技術医学会の体外循環関連の安全性情報として『安全装置設置基準の勧告』2)が掲載された。

文献

  • 人工心肺装置の標準的接続方法およびそれに応じた安全教育等に関するガイドライン
  • https://jasect.umin.ac.jp/