背景
- 日常的にハイリスク症例の手術を担う心臓血管外科施設が、常に医療の質向上に取り組むことは患者安全に大きく貢献する。
- 術後合併症を認めた個々の症例に関して院内検討会などで改善策を講じることは医療の質向上にとって有用である。しかし、第3者のエキスパートから助言を受ける機会はこれまでほとんどなかった。
- また、年間の症例全体から手術成績を検討し改善策を講じることも有用である。しかし、症例の重症度により手術成績は大きく左右されるため全国平均手術死亡率と各施設の手術死亡率を単純に比較する意義は乏しく、各施設の症例重症度に比してその手術成績が早急に改善を要するレベルか否かの判断は困難であった。ここでも経年的に症例全体を俯瞰して第3者のエキスパートから助言を受ける機会はほとんどなかった。
- 「JCVSD (Japan Cardiovascular Surgery Database)は、2000年に本邦心臓血管外科の医療の質向上を目的として設立され、全国約500の心臓血管外科施設が全ての手術データを入力している。術前データから個々の症例の予測死亡率を算出することも可能となり、JapanSCOREとして活用されている。同時に、施設の手術症例全体の予測死亡率算出も可能となり、実際の死亡率/予測死亡率(O/E ratio) がベンチマーク機能として各施設のJCVSDウエブ内に記載されている。この目的は、手術成績ベンチマーク機能を一定の目安として用い各施設が自ら医療の質を 高める契機とするためである。しかし、日常臨床に忙殺されている施設責任者がベンチマーク機能を利用しているか、また医療の質向上の契機となっているかはこれまで不明であった。
- 日本心臓血管外科学会は、医療の質向上を学会理念として掲げており、JCVSD加入施設でなおかつ医療の質向上プロジェクトに賛同する各心臓血管外科施設の協力のもと、JCVSD からのデータ共有を受けて以下の医療の質向上活動に取り組んでいる。
2015年からこれまでのプロジェクト内容
JCVSDによる全国データ及び自施設データ利用法の周知
- 学会総会の医療安全講習会などの機会を通じて、広く学会員に JCVSDデータを医療の質向上に結びつけるための方策について周知する。
NCD(JCVSD)上でのWeb Consultation(Web-Consul)
- 医療の質向上プロジェクトに賛同する施設の病院情報及び手術症例の経過などを、Web 上で施設責任者と学会アドバイザーが共有し検討の上、医療の質向上に向けた目標と方法を設定する。
- 本事業は平成27~28年度の日本医療研究開発機構研究助成事業である。研究期間終了後は、学会事業として継続予定である。
施設訪問によるOn-site Advisor Conference(OSAC)
- 学会アドバイザーが、医療の質向上プロジェクトに賛同する施設を訪問し、施設管理者の許可のもとカルテ等を参照し、医療の質向上の具体的方策について院内合同カンファランンスを行う。
- 後日、施設責任者に対してカンファレンス内容をまとめた報告書を送付する。
- また、学会はOSACにおいて知り得た一切の個人情報及び診療情報について守秘義務を負う。
本プロジェクトに関する論文が掲載されました。下記リンクからご覧ください。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31748402
医療の質向上の具体的事例の周知
- 学術総会等で、Web-Consul/OSACから得られた医療の質向上の事例や具体的方策等を学会員に広く周知する。
今後のプロジェクト内容(学会からの提案)
研修病院の医療の質に関して
心臓血管外科専門医認定機構と協働し、研修病院が標準的治療を行い心臓血管外科研修にふさわしい医療の質を維持するために以下の施策を検討する。
- 各年度のJCVSDデータ入力が完了しベンチマーク機能が使用可能な状態となった時点で、JCVSDから各研修施設指導責任者にメール通知する。
- 0/E Ratioや経年的推移などどを参考として学会から医療の質に関して施設にメールで問い合わせをする。施設は、現状分析と改善方針を学会及び機構と共有する。また施設は、Web-ConsulまたはOSACを学会に要請することができる。
学会は、研修病院に限らず学会員が在籍するすべての施設に、以下の医療の質向上支援事業を行う。
- 部長職にある学会員は、自施設の医療の質向上のために一定の自費負担の上でWeb-ConsulまたはOSACを学会に依頼することができる。