特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
日本心臓血管外科学会COI(利益相反)委員会
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会(以下本学会)は、心臓血管外科学領域における研究発表,知識の交換並びに会員相互間及び関連学会との提携などの学術研究に関する事業を通してその進歩普及に貢献し,学術、文化の発展と国民の医療福祉に寄与することを目的としている。一方、「ヘルシンキ宣言」や,本邦で定められた「臨床研究に関する倫理指針」(厚生労働省告示第225号,2003 年)において述べられているように,医学研究では,他の学術分野の研究と大きく異なり,研究対象が人間であることから,被験者の人権・生命を守り,安全に実施することに格別な配慮が求められている。
本学会の学術総会・刊行物などで発表される研究においては,ヒトを対象とした治療法の標準化のための臨床研究や,新規の医薬品・医療機器・技術を用いた臨床研究、および臨床への橋渡し研究を含む基礎医学研究も多く,産学連携による研究・開発が行われる場合が少なくない。このような産学連携による医学研究は臨床医学の進歩のためにきわめて重要な位置を占めていると言えるが、教育・研究という学術機関としての社会的責務と、産学連携に伴い生じる金銭・地位・利権などの個人の利益が衝突・相反する状態が必然的、不可避的に発生する。 こうした状態がConflict of interest(COI;利益相反と和訳されている)である。そして、COI 状態が深刻な場合,研究の方法,データの解析,結果の解釈が歪められるおそれや適切な研究成果であるにもかかわらず公正な評価がなされないなど中立性,公明性が得られない状況が生じる可能性がある。
本学会は,その活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されていることに鑑み,「医学研究のCOI に関する指針」(以下,本指針と略す)を日本医学会「医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」(2014年2月改訂)に基づき策定する。そして、COI指針を策定することにより、その事業遂行においてCOI に関する方針を明示し、産学連携による研究・開発の公正さを確保したうえで,医学研究を積極的に推進していく。
本指針の目的は会員に対してCOIについての基本的な考えを示すとともに、本学会の主催する各種事業に参加する者あるいは本学会役員、従業員のCOI状態を適切にマネージメントする具体的な方法を示すことにある。本指針を遵守することにより研究結果の発表やそれらの普及,啓発を,中立性と公明性を維持した状態で適正に推進させ,心臓血管外科領域の疾患の予防・診断・治療の進歩に貢献することを目的とする。
COI 状態が生じる可能性がある以下の対象者ならびに本学会自体に対し,本指針が適用される。
以下の活動を含む、本学会が行うすべての事業活動に対して,本指針を適用する。
特に、下記の活動を行う場合には、特段の指針遵守が求められる。
産学連携にて人間を対象とした介入型の臨床研究(臨床試験、治験を含む)の場合、当該研究の実施者は下記の事項について回避すべきである。
医学研究(臨床試験、治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ試験責任者あるいは研究代表者は、当該研究に関わる資金提供者・企業との金銭的な関係を適正に開示する義務を負っており、以下に記載する事項については特に留意して回避すべきであることが求められる。
但し,①〜⑦に該当する研究者であっても,当該医学研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり,かつ当該医学研究が国際的にも極めて重要な意義をもつような場合には,当該医学研究の試験責任医師に就任することは可能とする。
COIマネージメントは原則として対象者の自己申告を基に行われる。COI委員会、医療倫理委員会は所轄委員会などと連携し諮問機関としての役割を果たす。深刻なCOI状態が生じた場合はその答申に基づき理事会が対応を決定する。
COIマネージメントの対象者は、(1)役員など、(2)学術総会発表者、(3)雑誌著者の3区分に分類して策定された様式に従い自己申告することが義務付けられており、COI自己申告書を本学会理事長へ提出する。具体的な申告方法、開示・公開方法は,対象活動に応じて別に指針運用規則に定める。自己申告および申告された内容については,申告者本人が責任を持つものとする。
対象者は,自身における以下の①―⑨の事項で,指針運用規則に定める基準を超える場合には,COI の状況を所定の様式に従い,自己申告によって正確な状況を開示する義務を負うものとする。また,対象者は,その配偶者,一親等以内の親族,または収入・財産を共有する者における以下の①〜③の事項で,指針運用規則に定める基準を超える場合には,その正確な状況を申告する義務を負う。
企業・法人組織・団体からの奨学寄附金の受け入れ先は大きく2つに分かれ、機関の長(学長か病院長)と講座・分野の長となっている。前者の場合でも、企業・法人組織・団体からの機関の長を経由した形で奨学寄附金が発表者個人か、発表者が所属する部局(講座、診療科)あるいは研究室へ配分されている場合にも申告する必要がある。
製薬企業からの寄附金などが非営利団体(例、NPO)や公益法人(例、社団、財団)を経て研究者に交付されている場合、交付金が高額であれば、当該法人への出資者である企業名も記載すべきである。
寄附講座に所属する者は、発表に際しての職名は所属施設・機関で使われる正式名称(特任教授、特命教授など)を記載し、寄附講座については資金提供元の企業名を謝辞に明記すべきである。複数の企業などから資金提供されている場合には、ある一定基準額を超えていれば、該当する企業名をすべて記載し、透明性の確保を図ることが求められる。本学会学術講演会、本学会機関誌などで発表する場合には、「謝辞:XXX寄附講座は、YYY製薬の寄附金にて支援されている」、「Acknowledgement: Department of XXX is an endowment department,supported with an unrestricted grant from YYY」などと記載するべきである。
侵襲性のある大規模な介入型研究は、倫理委員会承認の実施計画書に記載された年限を超えて長期間にわたり実施されることが多く、論文投稿時点で学や雑誌社のCOI指針による申告書に従って自主的にすべてのCOI状態の開示が求められる。したがって、原則として役員就任時や発表時点から遡って過去3年間を対象期間としてCOI状態の自己申告が必要である。同時に対象者は、医学研究の企画・立案の時点から実施までの全期間について当該研究に係る企業との金銭関係に係る情報について自己管理が求められる。
役員など(対象者④⑤)においては、本学会事業などに関連する企業・法人組織・団体などとのCOI状態を記載した自己申告書を決められた時期に提出し、就任ならびに更新のための評価を受ける。また、任期中に新たなCOI状態が発生した場合、ある一定期限内に報告する義務を負う。
役員より提出されたCOI自己申告書は、機密保持の確保と個人情報保護の観点から厳格な管理を本学会事務局で行う。役員の任期終了した者あるいは委員委嘱撤回の日から2年間、理事長の監督下に本学会事務局で厳重に保管する。2年間経過した書類については理事長の監督下において速やかに削除・廃棄する。ただし、削除・廃棄することが適切でないと理事会が認めた場合には、期間を定めて当該申告者のCOI情報の削除・廃棄を保留できる。学術総会会長および学術総会事務局長に関するCOI情報に関しても、役員の場合と同様の扱いとする。
会員、非会員を問わず発表者全員が、Webサイトにて演題抄録を登録する時と発表時に、発表する研究内容に関連するCOI状態を所定の様式に従って自己申告による開示が義務付けられている。また、講演者は、演題名の次のスライドにて、あるいはポスターの最後にて本学会の定める様式に従って、COI状態をない場合も含め開示する義務がある。COI状態にある場合には企業・組織や団体の名称を掲示する必要がある。
本学会編集委員会は、会員・非会員を問わず、本学会が発行する学術雑誌に掲載される著者全員を対象にして、自己申告書の提出・開示を義務付ける。
通常、corresponding author が当該論文に係る著者全員からのCOI状態に関する申告書を取りまとめて提出することとし、記載内容については、著者全員の所属名も含めて原則として全責任を負う。
著者のなかに企業所属の研究者が含まれる場合、①当該研究者の所属企業名、部署名、職名、②当該研究への貢献内容、③当該企業からの出資額、④発表結果の帰属先、⑤研究結果の学会発表や論文発表の決定に関して関係企業が影響力の行使を可能とする契約の有無、⑥当該研究結果に影響を与えうる企業からの労務提供としての受け入れになっていないか等を確認し、研究の質と信頼性の担保ができているかどうかを含め総合的に論文受理の可否について判断する。
全著者のCOI状態に関する情報は、引用文献の前に記載する。規定されたCOI状態がない場合も「著者は全員この研究に関する利益相反はない」、英文の場合は「The authors state that they have no conflicts of interest」などの文言を同部分に記載する。
寄附講座に所属する会員は、論文発表に際しての和文例は、「謝辞:XXX寄附講座は、YYY製薬の寄附金にて支援されている」、英文例は「Acknowledgement: Department of XXX is an endowment department, supported with an unrestricted grant from YYY」などの記載が必要である。
COI開示違反者に対する措置に関しても、COI指針・運用規定または投稿規定に明文化する。
心臓血管外科学会として企業・法人組織、営利を目的とする団体から支払われる助成金、寄附金などの受入額の詳細を製薬協の透明性ガイドラインに記載された様式に準じて公開する。
理事会は,役員などが本学会の事業を遂行する上で社会的な信頼性を損なうような深刻なCOI 状態が生じた場合,或いはCOI の自己申告が不適切と認めた 場合,また、学術総会や学術雑誌への発表者によるCOIの自己申告が不適切であると認めた場合、COI委員会、医療倫理委員会、所轄委員会に諮問し,答申に基づいて改善指示、あるいは違反者に対しては本指針VII.に定める措置をとることができる。
COI委員会は、産学連携による医学研究、臨床研究、臨床試験の推進を前提にして、研究者の立場に立ってCOI状態を適正にマネージメントするための諮問機関の役割を果たしていくとともに以下の業務を行う。
理事長からの諮問を受けて、COI指針違反者に対する具体的な対応措置を違反内容や本学会への影響の度合いを考慮して判断し、決定することであり、理事長への答申がなされる。
会長は,日本心臓血管外科学会学術総会で医学研究成果が発表される場合,その実施が,本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する演題については発表を差し止めることができる。この場合には,速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する。なお,これらの対処についてはCOI委員会で審議し,答申に基づいて理事会で承認後実施する。
会誌編集委員会は,研究成果が本学会刊行物などで発表される場合に,その実施が,本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する場合には掲載を差し止めることができる。この場合,速やかに当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する。 当該論文の掲載後に本指針に反していたことが明らかになった場合は,当該刊行物などに編集委員長名でその由を公知することができる。なお,これらの対処については所轄委員会で審議の上,答申に基づいて理事会承認を得て実施する。
その他の委員会の委員長・委員は,それぞれが関与する学会事業に関して,その実施が,本指針に沿ったものであることを検証し,本指針に反する事態が生じた場合には,速やかに事態の改善策を検討する。なお,これらの対処については所轄委員会で審議し,答申に基づいて理事会承認を得て実施する。
役員や会員のCOIに関する情報の開示請求がなされた場合は、妥当と思われる理由であれば、理事長は個人情報保護のもとに事実関係の調査を含めCOI委員会に諮問し、答申を受けた後速やかに当該開示請求者へ回答する。疑義事項に対し所轄委員会で対応ができないと判断された場合には理事長は外部委員を含めた調査委員会を設置し、真相解明に向けて迅速にかつ的確に対応し、答申を受けた後、開示請求者に対して説明責任を果たす必要がある。
本学会理事会は,本指針に違反する行為に関してCOI委員会に諮問し、その答申をもとに審議する権限を有する。審議の結果,重大な遵守不履行に該当すると判断した場合には,その遵守不履行の程度に応じて一定期間,指針運用規則に定める手順にしたがい次の措置を取ることができる。
被措置者は,本学会に対し,不服申立をすることができる。本学会がこれを受理したときは,所轄委員会において誠実に再審理を行い,理事会の協議を経て,その結果を被措置者に通知する。
本学会は,自ら関与する場にて発表された研究に,本指針の遵守に重大な違反があると判断した場合,所轄委員会および理事会の協議を経て,社会への説明責任を果たすために本学会の内外に公表することができる。
本学会は,学会の独自性,特殊性を勘案して,本指針を実際に運用するために必要な指針運用規則を制定することができる。
本指針は,社会的影響や産学連携に関する法令の改変などから,個々の事例によって一部に変更が必要となることが予想される。本学会COI 委員会は,理事会の決議を経て,本指針を改正することができる。
1 本指針は平成24 年5月 1日より施行する。
1 本指針の改正は、平成28 年4月15日より施行する。