心臓血管外科ライブ手術ガイドライン(改訂版) ダイジェスト版
Ⅰ.ライブ手術の目的
心臓血管外科に関する様々な手術手技の教育を基本的目的とする。
Ⅱ.ライブ手術の要件
1.手術内容
- たとえ標準的手術であっても合併症や死亡率の高い手術は患者の人権に配慮して、ライブ手術の対象からは除外すべきである。
- また、術式選択に議論のある疾患はライブ手術には不適当と考える。
- 新たな手術器具やデバイス(国内にて承認済のものに限る)を用いたライブ手術は、その学術的意義から妥当性あるものに限る。
2.術者(以下の全てを満たすこと)
- 当該手術に対して充分な知識と経験を有し、これを日常的に実践している者
- ライブ手術の趣旨を理解し、正しい教育を行える者
- 日本人の場合は、関連学会の指導医や専門医として認定されている者
- 原則として、術者は所属している施設でライブ手術を行う。
- ライブ手術の内容に関連するCOI(利益相反)について、手術開始前に言及する。
3.実施施設(以下の全てを満たすこと)
- すべての観点から社会的に透明性が保たれ、情報公開が行われている施設であること
- 全ての医療従事者が当該手術に熟練し、不測の事態に速やかに対応できるように、連携が保たれ、術前の話し合いが充分になされていること
- 施設管理者も、ライブ手術の趣旨を理解し同意していること
- 関連学会認定の教育修練施設であること
4.視聴者
原則として、医師・看護師・技師などの医療従事者とする。一般市民やマスコミは当然除外されるが、企業などの医療関係者は、主催者の判断で参加を認めてもよい。なお、ライブ手術では参加者を登録制にして、主催者が把握・管理することが望ましい。
III. 倫理的問題
1.インフォームドコンセント(以下の全てを満たすこと)
- ライブ手術の目的とその内容・問題点を説明し、充分に理解を得た上で患者自身の自由意思による判断であること。
- ライブ手術の教育効果により将来の患者治療に役立つが、本人にとっては利益が無く、むしろリスクが増すこともあり得ることを患者に伝える必要がある。ライブ手術では術者が通常の慣れた環境とは異なり、術者の通常の実力を100%発揮できない可能性があるという内容を含むこと
- 手術の説明は、術者が直接、当該患者に行い、書面での同意を得ること。ただし、術者と実施施設が異なる場合には、実施施設の主治医(責任者)でもよい。
2.倫理委員会
実施施設の倫理委員会では、このライブ手術ガイドラインの内容を理解して、それに沿ったライブ企画であることを確認した上で承認すること。そして、そのようにして承認したという内容を明記した議事録を提出することが望ましい。
なお、それぞれのライブ手術企画について、倫理委員会での議論は必要と考える。たとえ、毎年行う同じ内容のライブ企画であっても、毎回、倫理委員会での承認が必要である。
3.患者のプライバシー
当該患者のプライバシーが決して侵されることがないように、個人情報は厳密に管理する必要があり、映像配信技術にも充分な配慮が求められる。
Ⅳ. ライブ手術の安全対策
1.手術内容の企画
前述したとおり、合併症や死亡率の高い手術は避けるべきである。また、時間的に余裕を持ったスケジュールのライブ企画とすることが必須である。
2.実施施設
普段通りの手術をライブで行うためには、術者が所属している施設で行うことが強く推奨される。
3.コーディネーター(手術室内)と司会者(会場)
術者とは別に適切なコーディネーターを手術室内に置くこと。討論者や視聴者から術者への質問は、状況によっては、コーディネーターがその内容をまとめて適切なタイミングで行うなどの工夫をして、円滑なライブ手術となるようにする。会場の司会者は術者の集中力を損なう質問やコメントを控えさせ、進行状況を判断して質問、コメントの可否とタイミングを決定する。
4.その他
- 撮影方法
ライブ手術の撮影は、良好な映像を求めることにこだわって手術手技の妨げになってはならない。 - 中継の中止
患者に重大な事態が生じた場合は、直ちに中継を中止し患者の救命に全力を尽さなければならない。その判断は司会者あるいはコーディネーターが負う。
Ⅴ.届出の義務
届出責任者は、ライブ手術実施責任者もしくは実施施設の責任者(院長)とする。
1.実施前
届出先は日本心臓血管外科学会医療安全管理委員会(委員長宛)とする。
期限はライブ手術実施予定日の2週間前までに提出することとする。
必要書類は以下の通りとする。
- 届出書(ライブ手術の目的、内容、術者、実施施設など企画の詳細)
- プログラム
- 実施施設における倫理委員会報告書(可能な限り議事録も添付)
- ライブ手術用チェックリスト(届出責任者の署名要)
なお、届出を受けた医療安全管理委員会は、ライブ手術実施を許認可する立場ではなく、許認可に関する責任は各施設にある。
2.実施後
届出先は実施前と同じとする。
期限はライブ手術後1~2か月を目途とする。
必要書類は以下の通りとする。
- 術後報告書
- 退院サマリーなど経過がわかるもの
ただし、もしも術中に事故が生じた場合や術後経過に問題があった場合は、できるだけ速やかに詳細を検討して報告すること。なお、重大な合併症や死亡事故などが発生した場合は、外部組織からの評価を受ける体制での院内の医療事故調査委員会を設置し、公正性と透明性を確保しなければならない。
Ⅵ.ライブ手術の評価
- 手術直後の検討会
手術中にはできなかった質問やコメントについて、術者と討論者・視聴者が充分に討論できる場を手術後に設け、手術の評価を行うべきである。 - 術後報告書のまとめ
このライブ手術ガイドラインを制定した3学会は、一定期間の後、提出された術後報告書をまとめて合同で分析し、その後のライブ手術のあり方について検討する。
2014年6月12日 制定
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
特定非営利活動法人日本胸部外科学会
特定非営利活動法人日本血管外科学会
心臓血管外科ライブ手術ガイドライン(改訂版)作成委員会
委員長 | 宮本裕治 | (兵庫医科大学) | |
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委員 | 日本心臓血管外科学会 理事長 | 上田裕一 | (奈良県総合医療センター) |
委員 | 日本胸部外科学会 理事長 | 坂田隆造 | (京都大学) |
委員 | 日本血管外科学会 理事長 | 宮田哲郎 | (国際医療福祉大学) |
委員 | 安達秀雄 | (自治医科大学附属さいたま医療センター) | |
委員 | 江石清行 | (長崎大学) | |
委員 | 椎谷紀彦 | (浜松医科大学) | |
委員 | 田代 忠 | (福岡大学) | |
委員 | 西田 博 | (東京女子医科大学) | |
委員 | 橋本和弘 | (東京慈恵会医科大学) | |
外部委員 | 前村 聡 | (日本経済新聞社) | |
外部委員 | 加藤良夫 | (栄法律事務所) | |
外部委員 | 山口育子 | (ささえあい医療人権センターコムル) |